こぎん刺しとは

◆こぎん刺しとは
 こぎん刺しは、江戸時代に青森県津軽地方の農家の女性が生み出した幾何学模様が特徴的な刺し子です。厳しい冬でも着用を許されたのは麻布のみ。そんな環境で麻布の目を糸で刺し埋め、補強と保温性を高めることで厳しい冬を乗り越えてきました。横に針を進めながら一段ずつ刺し進めていく手法は刺し漏れを防ぎ、補強や防寒の実用性を満たす上で大変に理に適っています。刺し埋める目的の先にあったのが、現在私たちが楽しんでいるモドコと呼ばれる幾何学模様です。
 農家の女の子は5、6歳になると母から針と糸を渡され、簡単な模様から次第に複雑な模様を覚え、結婚の際にはこぎん刺し着物を3〜6枚ほど持っていきました。娘たちはこぎんを持って集まっては、より魅力的なデザインにしようと楽しんで刺しました。

◆こぎん刺しの種類
 こぎん刺しは岩木川を境に3つの地域で異なる特徴を持ったデザインが発展していきました。土地柄が模様に大いに影響していることがうかがえます。

【東こぎん】弘前市の東側の穀倉地帯のこぎん
エリア:黒石市、旧南津軽郡平賀町(現平川市)、旧南津軽郡尾上町(現平川市)、弘前市石川地区

特徴:太めの麻糸で織った粗めの布に刺したものが多い、模様には縞がなく前身頃から後ろ身頃にかけて同じ模様を施したものが多く、全体的に大胆で大柄
※上記写真は東こぎんを模して制作した作品です

【西こぎん】弘前市の西側、山のこぎん 
エリア:中津軽郡一帯、西目屋村、旧岩木町(現弘前市)、旧相馬村(現弘前市)、弘前市船沢地区、弘前市小沢地区

特徴:からむし麻の細い糸で織った目の細かな布を使用し、模様が緻密。肩部分に黒糸と白糸で交互に刺した縞があることから「縞こぎん」と呼ばれる。後ろ身頃の背部分にはマムシよけの意味があると言われる「くつわつなぎ(逆さこぶ)」模様が施されている。

【三縞こぎん】岩木山(いわきさん)下流のこぎん
エリア:旧金木町(現五所川原市)、旧車力村(現つがる市)、旧木造村(現つがる市)
特徴:身頃の前後に鮮やかな太い3本の縞模様が施されている、度重なる冷害や凶作のためこぎん刺しをする生活の余裕がなかったと考えられ、現存するものは大変貴重。 

◆こぎん刺しの読み方(個人的見解)
 こぎん刺しの読み方は、「こぎんさし」でも「こぎんざし」でもどちらでもよいと考えています。私は自分が聞いてきた音から「こぎんさし」と呼びますが、「こぎんざし」と言う方もたくさんいます。「津軽弁も私たちの世代でさえ違いがありますし、濁点はそういった細やかな違いと捉えています。
※2022年4月時点では、弘前駅の改札内の壁にあるこぎん刺しの説明部分には「Koginsashi」と書かれていましたし、こぎんフェスでは「こぎんざし」とふりがなが振ってありました。


◆参考文献  
 下記参考文献は写真集や読み物としても大変に面白い本です。ぜひ。
⚪︎田中忠三郎.みちのくの古布の世界
 河出書房新社,2009.(ISBN978-4-309-76131-2)
⚪︎弘前こぎん研究所監修.基礎知識、基本と応用技法、モドコの図案を収録した決定版 津軽こぎん刺し 技法と図案集
 誠文堂新光社,2013.(ISBN978-4-416-61390-0)

さとの坊